自分の強みに注目した転職のススメ
著者: 竹洞 陽一郎
転職活動において、自分の強みを明確に把握し、アピールできることが成功の鍵を握ります。
本記事では、転職時の基本原則、業界未経験・職種未経験の場合の突破口、そしてIT業界で特に重視されるアピールポイントについて解説します。
これらのポイントを押さえ、自信を持って転職活動に挑みましょう。
転職の基本原則
まず、転職を成功させるための基本を理解しましょう。
リスクを最小限に抑えるため、通常は以下のいずれかに該当する転職を目指すのがセオリーです。
- 同じ業界での転職(業界知識を活かす)
- 同じ職種での転職(専門スキルを活かす)
業界未経験かつ職種未経験の転職は、即戦力性が低く見えるためハードルが高くなります。
20代であればポテンシャル採用の枠がありますが、年齢が上がるほど、業界知識や職種経験の厚みが厳しく問われるようになります。
異業界、同職種の転職
例えば、製造業の広報職からIT企業の広報職へ転職する場合です。
新たにIT業界の知識や製品・サービスについて学ぶ必要はありますが、「広報」という業務への精通があれば大きな問題はありません。
業界知識さえ習得すれば、早期にパフォーマンスを発揮できるでしょう。
同業界、異職種の転職
例えば、IT企業でプリセールスエンジニアから広報職への転職です。
IT製品や技術に精通しているため、技術的な裏付けを持ってメディア対応ができる強みがあります。
広報の実務スキルは学ぶ必要がありますが、背景知識があるため習得は早く、スムーズに対応できるでしょう。
業界・職種未経験を突破する「能力の要素分解」
では、業界未経験かつ職種未経験の場合はどうすればよいでしょうか。
難易度は上がりますが、仕事を「要素分解」し、汎用的な基礎能力をアピールすることで突破口が開けます。
多くの仕事は、以下の共通スキルの組み合わせで成り立っているからです。
- 言語能力
- 論理的に考え、記事を書き、正確に伝える力
- 数理能力
- データを読み解き、計算や数値を根拠に扱う力
- 時事能力
- 社会情勢や業界トレンドなどの情報をキャッチアップする力
技術職は「論理的思考」×「言語化」の掛け合わせ
技術職では、数理能力(論理的思考)と言語能力の両方が求められます。
プログラミングやデータ解析には論理的な思考プロセスが不可欠ですが、同時に、人間は言語を使って思考するため、高度な言語能力も必要です。
また、仕様書の作成やチームへの技術説明など、「書く・話す」機会も多いため、言語能力は技術者にとっての必須スキルです。
広報職は「翻訳力」と「社会へのアンテナ」
広報職では、言語能力と時事能力の高さが武器になります。
広報は単なる宣伝ではなく、自社が解決している課題を、社会の文脈に合わせて「翻訳」し、メディアを通じて認知してもらう活動です。
そのため、情報を魅力的に伝える言語能力と、今社会が何に関心を持っているかを察知する鋭い時事能力(アンテナ)が必要です。
業界・業種を問わず評価される「ポータブルスキル」
ポータブルスキルとは?
「ポータブルスキル」とは、厚生労働省が提唱している概念で、「業種や職種が変わっても強みとして発揮できる持ち運び可能な能力」のことを指します。
特定の仕事でしか使えない専門技術(テクニカルスキル)に対し、どのような環境でも成果を出すために必要な汎用的なスキルです。
厚生労働省の定義では、大きく「仕事のし方」と「人との関わり方」の2つに分類され、以下の9要素で構成されています。
| 分類 | スキル | 定義 |
|---|---|---|
| 仕事のし方 | 現状の把握 | 常にアンテナを張って情報を収集し、それを評価・分析している |
| 課題の設定 | 自分なりの問題意識に基づいて、改善策や解決策を設定する | |
| 計画の立案 | 最終的なゴールに向けて、効果的なシナリオを描き、具体的な実行計画をたてる | |
| 課題の遂行 | 成長や目標達成にこだわって、納期を厳守しながら業務を確実に遂行する | |
| 状況への対応 | どのような状況の変化に直面しても、臨機応変に対応する | |
| 人との関わり方 | 社内対応 | 価値観の異なる人々や利害の対立する社内関係者と調整し、合意形成を図る |
| 社外対応 | 価値観の異なる人々や利害の対立する顧客・社外関係者と調整し、合意形成を図る | |
| 上司対応 | 上司に対して、報告や意見具申を行う | |
| 部下マネジメント | 部下やメンバーの持ち味を把握して業務を割り当てたり、育成・指導を行う |
未経験の業界へ転職する際、あなたの最大の武器になるのがこのスキルです。
まずは、厚生労働省が提供するポータブルスキル見える化ツールなどを利用して、ご自身の強みが9つの要素のうちどこにあるのかを診断・特定してください。
重要なのは、「自分にはどのスキルがあるか」を知った上で、それを「応募先企業(IT業界など)でどう活かせるか」という形に翻訳して伝えることです。
以下に、Spelldataでの業務を例としたポータブルスキルの活用・アピール方法を紹介します。
活用例1:「現状の把握」や「状況への対応」を学習力(Fast Learner)として示す
「現状の把握」が得意な方は、自分が何を知っていて何を知らないかを客観的に理解できるため、不足している知識を効率的に埋めることができます。
また、「状況への対応」が得意な方は、変化の激しいIT業界においても、新しい技術やトレンドに柔軟に適応できます。
これらは、技術革新の速いIT業界や外資系企業で最も重視される「Fast Learner(速く学ぶ人)」としての資質に直結します。
面接では、「未知の分野に直面した際、どのように情報を収集し、どう適応したか」というプロセスを伝えることで、高いポテンシャルを証明できます。
活用例2:「社内・社外対応」をチーム開発力や語学力として示す
「社内対応」や「社外対応」が得意な方は、単に仲良く話すだけでなく、利害関係を調整し、プロジェクトを円滑に進める力を持っています。
システム開発はチームで行うものであり、認識の齟齬を防ぎ、合意形成を図るコミュニケーション能力は、技術力以上に重要な場合があります。
また、IT業界における「語学力(英語)」も、この対人スキルの一種としてアピール可能です。
海外のドキュメントを読み解き(情報収集)、それをチームに共有する(社内対応)スキルは、Spelldataのような企業で非常に高く評価されます。
活用例3:「課題の設定」や「計画の立案」を推進力として示す
「課題の設定」や「計画の立案」が得意な方は、マニュアルがない状況でも自らすべきことを見つけ、ゴールへの道筋を描くことができます。
Webのパフォーマンス計測など、原因が複雑なトラブルシューティングの現場では、仮説を立てて検証するこの「問題解決能力」が不可欠です。
過去の業務で、どのような課題を自ら発見し、どう計画を立てて解決に導いたか。
そのエピソードは、職種が異なっても「推進力のある人材」としての強力なアピールポイントになります。
まとめ:企業が求めているのは「完成品」ではなく「原石」
即戦力が理想であることは間違いありませんが、日本では高度な専門性を持つ人材が慢性的に不足しています。
すべての企業が人材獲得競争に直面しており、完全な即戦力だけでポジションを埋めることは困難です。
そのため、企業は「高いポテンシャルを持つ未経験者(原石)」を採用し、教育投資を行って成長させる方針を採っています。
募集要項の「未経験可」は「誰でも可」ではなく、「素養があり、自ら学ぶ意欲のある人なら可」と解釈すべきです。
採用試験において、あなた自身が商品です。
企業は「この人の強みは何か?」「自社でどう活かせるか?」という視点であなたを見ています。
自身のポータブルスキルを明確に把握し、それを企業のニーズに合わせてアピールすることで、理想のキャリアへの扉は必ず開きます。