机に向かって仕事の計画を立てている様子

「頑張ります」を禁止している理由


著者: 竹洞 陽一郎

「頑張ります」は、仕事の場でよく使われる言葉です。
Spelldataでは、この発言を禁止しています。
社内の報告でも、顧客宛の文章でも同じです。
その理由と、代わりに何を言ってもらっているかを説明します。

「頑張ります」と言った瞬間に、思考が止まる

「頑張ります」は、意欲や前向きな姿勢を示すには便利な言葉です。
しかし、この言葉には、何をどうするのかが一切含まれていません。
遅れている仕事に対して「頑張ります」と言っても、遅れの原因も、取り戻す方法も、いつまでに終わるのかも決まっていません。

問題は、言った本人がそれで満足してしまうことです。
意気込みを口にした時点で、前向きな態度を示したという感覚が得られ、考えることをやめてしまいます。
深く考えることを避けるために、無意識にこの言葉が出ている場合もあります。
周囲も「前向きだ」と受け取って納得するので、止める人が出てきません。
結果として、何も進まないまま時間が過ぎます。

Spelldataでは、対策とアクションを報告してもらいます

そこでSpelldataでは、「頑張ります」の代わりに、具体的な対策とアクションを考えて報告してもらっています。
たとえば、顧客への報告書の作成が予定より遅れているとします。

「頑張ります」型の報告
遅れていますが、頑張って今週中に仕上げます。
Spelldataで求めている報告
遅れの原因は、計測データの集計に想定の2倍の時間がかかったことです。
集計は今日15時までに終えます。
グラフの作成と考察の執筆は明日の午前に3時間を確保し、明日17時に提出します。
今後、同じ形式の集計はスクリプト化して、次回から1時間以内に終わるようにします。

後者には、原因、今日やること、明日やること、締め切り、再発防止策が含まれています。
ここまで考えれば、報告する側は自分が何をすべきかが分かり、受け取る側は進捗を確認できます。
「頑張ります」の一言では、どちらもできません。

なぜ言葉そのものを禁止するのか

具体的な報告を求めれば足りるのであって、言葉を禁止する必要はないのではないか、という疑問があると思います。
それでも言葉の側で止めているのは、言った後に「では具体的に」と続けるのが難しいからです。
私の経験では、意気込みを口にした後で具体的な行動に戻れる人は少数です。
入口で止めれば、最初から具体的な行動を考えるしかなくなります。

実際に「頑張ります」と言ってしまった場合、罰則はありません。
「具体的にどうするかを決めてください」と伝え、行動を決めて報告し直してもらうだけです。
顧客宛の文章で出てきた場合も同じで、「頑張ります」の代わりに、何をいつまでに行うかを書いてもらいます。
顧客が知りたいのは、当社の意気込みではなく、いつ何が届くかだからです。

行動に落とすときの3つの条件

報告する行動は、次の3つを満たす必要があります。

1. 何をするかが明確であること
「仕様書を読む」では、どこまで読めば終わりなのかが分かりません。
「API認証機能の仕様書を読む」まで具体化すると、対象が確定します。
2. 量が数字で示されていること
「20ページ読む」「3件確認する」のように、量を数字で置きます。
数字があれば、自分が1日にどれだけこなせるかが分かり、次の見積もりの精度が上がります。
数字がなければ、終わったかどうかの判断が曖昧になります。
3. 実行する時刻が決まっていること
時刻を割り当てていない行動は、実行されにくくなります。
「時間がなかった」という理由の多くは、最初から時間を確保していなかったことによります。
「15時までに」「明日の午前に3時間」と、カレンダー上の枠を先に確保します。

3つを満たすと、「15時までにAPI認証機能の仕様書を20ページ読む」という形になります。
ここまで具体化された行動には、頑張るかどうかを問う余地がなく、やったかやらなかったかで確認できます。
それが狙いです。

優先順位は、重要度と緊急度で決める

決めた行動が複数あるときは、すべてを同じ重さで扱わないことも必要です。
緊急度と重要度の2軸でタスクを分類するアイゼンハワー・マトリクスは、その判断に使える単純な道具です。
緊急ではないが重要なタスクは、意識して時間を確保しないと、緊急なタスクに押し出されて後回しになり続けます。
当社が業務時間中に置いている毎日3時間の学習時間は、この象限にあたります。

重要度と緊急度でタスクを分類するアイゼンハワー・マトリクスの図
アイゼンハワー・マトリクス

まず3週間、続けてみる

意識だけで人が変わることは稀です。
人が変わるのは、行動を決め、それを繰り返したときです。
「頑張ります」の代わりに行動を決めて報告する、という習慣も同じで、繰り返して身につけるものです。

新しい行動を始めた最初の数週間は、「自分らしくない」と感じることが多いです。
その違和感を理由に止めてしまうと、行動は定着せず、元に戻ります。
その違和感は、多くの場合、行動が間違っている合図ではなく、まだ習慣になっていない合図です。

習慣になるまでの期間として、「21日」がよく挙げられます。
これは形成外科医のマクスウェル・マルツが著書『Psycho-Cybernetics』(Prentice-Hall, 1960年)の序文で、手術後の患者が新しい顔に慣れるまで平均して約21日かかるという観察などから、心的イメージが変わるには最低でも約21日を要すると記したことが元になっています。
患者を診てきた経験に基づく記述であり、習慣形成を調べた研究結果ではありません。

習慣形成を実際に計測した研究では、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのLallyらが、96名を対象とした12週間の研究で、行動が自動化するまでの日数は66日、個人差は18日から推定254日と報告しています(Lally, P. et al., “How are habits formed: Modelling habit formation in the real world,” European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009, 2010, DOI: 10.1002/ejsp.674)。
つまり、21日で習慣になる保証はなく、必要な日数は行動の内容によって大きく変わります。

それでも、最初の区切りとしては「まず3週間」が現実的です。
根拠のある期間だからではなく、違和感が薄れ始めるまで続けるための、手の届く目標だからです。
3週間続いたら、次の3週間を続けます。
それを繰り返した先で、その行動は「自分らしい」ものになっています。

選考で「頑張ります」はどう扱われるか

応募書類や事前質問票でも、「頑張ります」型の表現は頻繁に出てきます。
「入社後は精一杯頑張ります」「一日でも早く戦力になれるよう努力します」といった文です。

当社の選考では、こうした意気込みそのものは好意的に受け取ります。
ただし、評価にはほとんど加えません。
意気込みは誰でも書けるので、応募者を区別する材料にならないからです。

評価しているのは、過去に何をどうしたかの記述と、入社後にどのように貢献するかの具体性です。
「業務効率化に努めました」ではなく、「月末の集計作業の手順を見直し、所要時間を6時間から2時間に短縮しました」という記述です。
入社後の貢献については、応募書類に書かれた内容を評価するほか、事前質問票でも質問しています。

まとめ

Spelldataでは、社内でも社外でも、「頑張ります」という発言を禁止しています。
その一言で、何をすべきかを考えることが止まるからです。
代わりに、何を、いつまでに、どれだけやるかを決めて報告してもらいます。

「頑張る」を「行動する」に置き換えると、仕事は意気込みの問題ではなく、決めたことを実行するかどうかの問題になります。
意気込みを示し続ける負担がなくなり、進捗は確認できるようになります。
選考でも、当社が見ているのは意気込みではなく行動です。

Spelldataは、精神論の「頑張り」や曖昧な指示に違和感を持っている方には、合う環境だと考えています。