未経験の分野へ移るとき、何が持ち運べるのか


著者: 竹洞 陽一郎

IT業界の経験も、応募する職種の経験もない。
この状態から応募される方に向けて、何を手がかりにすればよいのかを書きます。

転職には、2つの定石があります

リスクを抑えた転職の型は、次のどちらかです。

たとえば、製造業の広報からIT企業の広報へ移る場合。
IT製品やサービスの知識は新たに覚える必要がありますが、広報という仕事の進め方は分かっています。
業界知識さえ埋まれば、早い段階で成果を出せます。

逆に、IT企業の営業から同じ会社の経理へ移る場合。
経理の実務は学び直しになりますが、自社の製品も顧客も分かっているため、数字の意味が理解できます。

どちらかが残っていれば、持ち込めるものがあります。
問題は、両方とも未経験の場合です。

両方とも未経験のとき、何が残るのか

このとき手がかりになるのは、仕事を要素に分解したときに残る、汎用的な能力です。

Spelldataでは、その中核を次の3つと考えています。
これは公的な分類ではなく、採用と育成を続けてきた中での私たちの見方です。

言語能力
論理的に考え、正確に書き、誤解なく伝える力
数理能力
データを読み解き、数値を根拠として扱う力
時事能力
社会情勢や技術動向を継続的に追い続ける力

技術職には、数理能力と言語能力の両方が要ります。
プログラミングや計測データの解析には論理的な思考が要りますが、人は言語で思考するため、言語能力が思考の解像度そのものを決めます。
仕様書を書き、調査結果を説明する場面も多く、書けない技術者は評価されません。

広報には、言語能力と時事能力が要ります。
広報は宣伝ではなく、自社が解いている課題を社会の文脈に翻訳して伝える仕事だからです。
今どんな話題に関心が集まっているかを察知できなければ、翻訳先が定まりません。

「ポータブルスキル」という公的な枠組み

前節はあくまで私たちの見方です。
より客観的に棚卸しをしたい方のために、公的な枠組みを紹介します。

ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても強みとして発揮できる、持ち運び可能な能力を指します。
一般社団法人人材サービス産業協議会(JHR)が開発した概念で、厚生労働省がこれを測定するポータブルスキル見える化ツールを提供しています。

ポータブルスキルは「専門技術・専門知識」「仕事のし方」「人との関わり方」の3つで構成されます。
このうち診断ツールが測るのは、職種が変わっても通用する後者2つで、次の9要素です。

ポータブルスキル見える化ツールが測定する9要素
分類 要素 定義
仕事のし方 現状の把握 常にアンテナを張って情報を収集し、それを評価・分析している
課題の設定 自分なりの問題意識に基づいて、改善策や解決策を設定する
計画の立案 最終的なゴールに向けて、効果的なシナリオを描き、具体的な実行計画をたてる
課題の遂行 成長や目標達成にこだわって、納期を厳守しながら業務を確実に遂行する
状況への対応 どのような状況の変化に直面しても、臨機応変に対応する
人との関わり方 社内対応 価値観の異なる人々や利害の対立する社内関係者と調整し、合意形成を図る
社外対応 価値観の異なる人々や利害の対立する顧客・社外関係者と調整し、合意形成を図る
上司対応 上司に対して、報告や意見具申を行う
部下マネジメント 部下やメンバーの持ち味を把握して業務を割り当てたり、育成・指導を行う

ツールは無料で、入力は15分程度です。
9要素に29点の持ち点を配分し、近い職務・職位を提示する仕組みになっています。

ただし、このツールはミドルシニア層のホワイトカラー職種を想定して作られています。
20代の方が使う場合、職歴が短い分だけ結果は粗くなります。
提示された職務をそのまま受け取るのではなく、9要素のうち自分がどこに厚みを持っているかを言葉にするための枠組みとして使ってください。

持ち運べるものを、Spelldataの仕事に置き換える

9要素のうち、当社の業務と結びつきやすいものを3つ挙げます。

「現状の把握」「状況への対応」が厚い方
自分が何を知っていて何を知らないかを把握できるため、埋めるべき知識を絞り込めます。
計測対象の技術は数年で入れ替わるので、この力は直接効きます。
「社内対応」「社外対応」が厚い方
利害の異なる相手と合意を作る力です。
性能改善の提案は、開発、インフラ、事業部門で優先順位が違う中を通す仕事なので、技術的な正しさだけでは動きません。
海外のドキュメントを読んで社内に共有する作業も、この延長線上にあります。
「課題の設定」「計画の立案」が厚い方
手順書がない状況で、やるべきことを自分で決められる力です。
Webの表示が遅い原因は、DNS、TCP、TLS、CDN、画像、ブラウザのレンダリングのどこにでもあり得ます。
仮説を立てて切り分ける以外に進め方がありません。

Spelldataは、どこで何を見ているか

ここは正直に書いておきます。

当社の選考は、書類選考、質問票、EQ検査、適性検査、学力検査、Zoom面接の6段階です。
Zoom面接は採用を前提とした契約条件のすり合わせの場なので、話し方や自己PRの巧みさで評価が変わる場面はありません。

言語能力と数理能力については、資格要件と学力検査で測っています。
文章検2級相当の日本語能力を必須としているのも、そのためです。
検査で測れるものを、面接で聞き直すことはしません。

一方、書類選考と質問票で見ているのは、自分の持ち味を自分の言葉で説明できるかどうかです。
9要素のどこが厚いのかを把握していない方は、ここで書けません。
この記事で棚卸しを勧めているのは、通過するためではなく、自分で判断できる状態にしてから応募していただきたいからです。

強みと弱みを具体的にどう書くかは、別の記事で扱っています。

「強み」と「弱み」の書き方

年齢について

一般に、年齢が上がるほど経験の厚みが問われるようになります。
ただし当社の場合、年齢制限を設けているのは未経験での応募に限られ、35歳までとしています。
これは長期のキャリア形成を前提とした募集であるためです。

経験者としての応募には、年齢の条件を設けていません。
持ち運べるものがあるなら、それは年齢と無関係に効きます。

まとめ

募集要項の「未経験可」は「誰でも可」ではありません。
持ち運べるものがあり、それを自分で説明できる方であれば可、という意味です。