すんなり読めてしまう学習は、疑ったほうがいい
著者: 竹洞 陽一郎
専門書を読み終えたとき、「すんなり理解できた」と感じることがあります。
気持ちのよい体験ですが、そのあと業務で使おうとすると手が止まる。
心当たりのある方は多いと思います。
学習が滑らかに進むこと自体が、理解が浅いことの兆候である場合があります。
なぜそうなるのか、どうすればよいのかを書きます。
クリティカルシンキングは「批判」ではありません
先に用語を定義します。
クリティカルシンキング(批判的思考)は、他者の意見を否定したり攻撃したりすることではありません。
自分の思考や目の前の情報に対して「本当に正しいのか」「前提に偏りはないか」と建設的な疑いを向ける、内省的な思考の態度を指します。
ロジカルシンキング(論理的思考)と対比すると分かりやすくなります。
- ロジカルシンキング
- 「AだからB、BだからC」と筋道を立てて結論に向かう力。アクセルにあたります。
- クリティカルシンキング
- 「前提のAは本当に正しいのか」「B以外の道はないのか」と立ち止まる力。ブレーキとハンドルにあたります。
どちらか一方では車は走りません。
ただ、学習の場面で欠けやすいのは後者です。
なぜ、すんなり進んでしまうのか
学校の勉強では、教科書に書かれた正解を効率よく取り込むことが求められました。
そこでは滑らかに進むことが正しい進み方です。
しかし実務には、あらかじめ用意された正解がありません。
書かれている情報をそのまま受け取る力だけでは、想定外の条件や複雑な要件に対応できません。
理解が深い人は、学習の過程で自分から立ち止まります。
読み流せば進めるところで、あえて次のような問いを挟んでいます。
- 前提を疑う
-
この技術は便利そうだが、どのような条件下では動かなくなるのか。
著者はこう主張しているが、デメリットには触れているか。
情報をそのまま受け取らず、境界値や例外を想定します。 - 構造を確かめる
-
「なんとなく分かった」で済ませず、「なぜこの仕組みで動くのか」を自分の言葉で説明できるところまで掘ります。
滑らかに進んでしまう場合、字面を追っているだけで、内部の仕組みが頭の中で組み上がっていないことが多いです。 - 自分の現場に当てはめる
-
今担当している業務に適用したら、どこが引っかかるのか。
知識を抽象的なまま置かず、具体的な課題と突き合わせます。
学習中につまずくことや立ち止まることは、理解が遅いのではありません。
情報の整合性を検証している証拠です。
この検証を学習の段階で済ませるか、実務に入ってから払うかの違いだけです。
後回しにすると、本番でつまずきます。
Spelldataでは、共有することで検証しています
とはいえ、自分で自分の理解を疑うのは難しいものです。
分かったつもりになっている箇所は、自覚できないから分かったつもりなのです。
そこで当社では、ナレッジリターン制度を設けています。
試用期間中、週に1回、自分が講師になって学んだ内容を共有する仕組みです。
アメリカの大学のティーチングアシスタント制度をヒントにしたもので、学習投資を受けるだけでなく、会社に知識で返していただくことが目的です。
最初の題材は、これまで働いてきた業界や職種の話で構いません。
題材が尽きたら、毎日3時間の学習で学んだ内容を、自分の言葉で整理して共有していただきます。
人に説明しようとすると、理解していない箇所が必ず表面化します。
これが、自分では気づけない「分かったつもり」を検出する仕組みです。
上手に話す必要はありません。
準備してきたか、相手に伝えようとしているか。
見ているのはその2点だけです。
速く読み終えることを目標にしないでください
毎日3時間、年間で約700時間の学習時間を業務時間内に確保しています。
2019年に始めて、現在も続いている制度です。
この時間の使い方で、ひとつだけお願いしていることがあります。
冊数やページ数を目標にしないでください。
3時間で1冊読み終えた人と、3時間で20ページしか進まなかった人がいたとして、後者の方が身についていることは普通にあります。
20ページの間に何度も立ち止まり、手を動かして確かめ、説明できるまで掘ったのであれば、それは遅いのではなく深いのです。
評価しているのは進んだ量ではなく、その内容を業務で使えるかどうかです。
ついでに触れておきます
学習が滑らかに進むこと以外にも、学んだ量が成果に結びつかない原因はあります。
- 伝えられない
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鋭い視点を持っていても、専門知識のない相手に翻訳して伝えられなければ、その知識はチームの中で価値になりません。
仕事は一人で完結しないためです。 - 手段が目的になる
-
学ぶこと自体が楽しくなると、新しい技術を使うことが目的になりがちです。
実務では、納期と予算の制約の中で最適な解を出すことが求められます。
「最新だから使いたい」という理由でリスクの高い選択をすれば、評価は下がります。
まとめ
- 学習が滑らかに進むことは、理解が浅いことの兆候である場合があります
- クリティカルシンキングは他者を批判することではなく、自分の理解を疑う態度です
- 検証は学習の段階で払うか、実務で払うかの違いしかありません
- Spelldataでは、週1回の共有によって「分かったつもり」を表面化させています
読み終えるのが遅いことを、気にしないでください。
立ち止まった回数の方が、あとで効いてきます。