脳の「可塑性」を維持する：キャリアチェンジを成功させる日々の学習習慣

脳科学から紐解く、生涯現役のキャリア戦略


著者: 竹洞 陽一郎

皆さんは、毎日運動をしていますか？
もしもあなたが、毎日ジョギングやランニングをしていないのに、「今日から毎日30kmを走ってください」と言われたら、できるでしょうか？
年齢を重ねるほどに、そんなことをしたら、息切れや筋肉痛、もしかしたら肉離れを起こしてしまって、30kmどころか1kmも走れないでしょう。

しかし、転職活動において、このような無茶をする人は絶えません。
今までやったことがない、新しい分野や、違う職種で仕事をしようとするのです。

人生において、新しいことに挑戦する機会は常にあります。
しかし、年齢を重ねるにつれて、新たなスキルの習得や未経験の分野への挑戦が難しくなっていくのも事実です。
これは単なる感覚ではなく、科学的にも裏付けられています。

脳の可塑性（柔軟性）は年齢とともに低下していきます。
つまり、若いうちは新しい情報を吸収し、新しいスキルを身につけることが比較的容易ですが、年を取るにつれてそれが難しくなっていくのです。

例えば、昨日行っていたことを今日も続けるのは比較的簡単です。
筋肉や脳の記憶が新しいうちは、その行動を繰り返すのに大きな労力は必要ありません。
しかし、何年も行っていなかったことや、全く新しいことを始めようとすると、それは大きな挑戦となります。

このことから、できるだけ早い段階で自分の専門分野を確立することの重要性が浮かび上がってきます。
若いうちに特定の分野に集中し、深い知識とスキルを獲得することで、将来的に大きな優位性を得ることができるのです。

早期専門化のメリット

深い専門知識の獲得
若いうちから特定の分野に集中することで、その分野の深い理解と洞察を得ることができます。
スキルの洗練
長年の経験を通じて、スキルを磨き上げ、高度な技術を身につけることができます。
ネットワークの構築
特定の分野に長く携わることで、その分野の重要な人々とのつながりを築くことができます。
キャリアの安定性
専門性が高まれば、その分野での需要も高まり、キャリアの安定につながります。
イノベーションの可能性
深い知識を持つことで、その分野での革新的なアイデアを生み出す可能性が高まります。

もちろん、これは人生の早い段階で自分の興味や適性を見極める必要があることを意味します。
そのためには、様々な経験を積み、自己探求を行うことが重要です。
しかし、ある程度の方向性が見えたら、それに向かって集中的に取り組むことが大切です。

また、これは決して「今からでは遅い」という意味ではありません。
過去に培った専門性は、新しい分野と掛け合わせることで、あなただけの独自の強み（ユニークさ）に変わります。
重要なのは、今日から新しい専門性を積み上げ始めることです。

最後に、これは決して「後からの変更は不可能」ということではありません。
人生には常に新たな挑戦の機会があります。
ただ、早い段階で自分の専門性を確立することで、より強固な基盤を築き、将来的な成功の可能性を高めることができるのです。

今、あなたは何に情熱を注いでいますか？
それは将来のあなたを支える専門性になり得るでしょうか？
今こそ、自分の道を切り拓くときかもしれません。

脳と筋肉の類似性

脳は筋肉と同様に生体組織です。
この類似性は、私たちが脳の健康と可塑性を維持する方法を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

使わないと衰える
筋肉を使わないでいると筋力が低下し、柔軟性を失うように、脳も使わないでいるとその機能が衰えていきます。特に、新しいことを学んだり、複雑な問題を解決したりする能力が低下する可能性があります。
定期的な刺激が必要
筋肉を健康に保つためには定期的な運動が必要なように、脳も定期的な刺激が必要です。新しい情報を学んだり、挑戦的な課題に取り組んだりすることで、脳の神経回路を活性化し、可塑性を維持することができます。
柔軟性の維持が重要
筋肉の柔軟性が失われると怪我をしやすくなるように、脳の可塑性が低下すると新しい情報や変化に適応することが難しくなります。これは、新しいスキルの習得や、変化する環境への適応能力の低下につながる可能性があります。
回復には時間がかかる
長期間使っていなかった筋肉を再び鍛え直すのに時間がかかるように、長期間学習から遠ざかっていた脳が再び効率よく学習できるようになるまでには時間がかかります。

これらの類似点を考慮すると、早期専門化の重要性に加えて、生涯を通じて学び続けることの重要性が浮かび上がってきます。
専門分野を深めながらも、常に新しいことに挑戦し、脳に適度な刺激を与え続けることが大切です。

日々学ぶ習慣の重要性

毎日少しずつでも新しいことを学ぶ習慣を身につけることで、脳の可塑性を維持し、学ぶ能力自体を保つことができます。
これは、単に知識を増やすだけでなく、学習能力自体を維持・向上させる上で非常に重要です。

例えば：

これらの小さな習慣が、長期的には大きな違いを生み出します。
学ぶことが習慣化されれば、新しい情報や技術を吸収することがより容易になり、変化の激しい現代社会により適応しやすくなるでしょう。

年齢を重ねてからの転職の難しさ

これまで述べてきた脳の可塑性と学習能力の変化は、キャリアの選択、特に転職を考える際に重要な影響を与えます。
年齢を重ねるにつれて、全く新しい分野への転職が難しくなる理由をいくつか挙げてみましょう。

学習の壁
新しい分野に転職すると、大量の新しい情報やスキルを短期間で習得する必要があります。若い時に比べて脳の可塑性が低下している場合、この学習プロセスはより困難で時間がかかるものになる可能性があります。
既存の習慣やパターンの影響
長年培ってきた仕事のやり方や思考パターンが、新しい環境での適応を妨げる可能性があります。これらの既存のパターンを変更することは、年齢とともに難しくなります。
体力と精神的負担
新しい環境に適応し、新しいスキルを習得するプロセスは、身体的にも精神的にも負担が大きいものです。年齢とともにこの負担に耐える能力が低下する可能性があります。
競争の激化
新しい分野では、その分野で経験を積んできた若い世代と競争することになります。年齢による学習速度の差が、この競争をより厳しいものにする可能性があります。
経済的リスク
新しい分野でのキャリアをゼロから始めることは、多くの場合、収入の減少を伴います。年齢が上がるにつれて、このような経済的リスクを取ることがより難しくなります。
業界の偏見
残念ながら、一部の業界では年齢に対する偏見が存在します。特に技術が急速に進化する分野では、若い人材を好む傾向があり、これが転職の障壁となる可能性があります。

しかし、これは不可能を意味するわけではありません。
むしろ、早い段階から自分の専門性を確立することの重要性を強調するものです。
同時に、常に学び続け、脳の可塑性を維持することの重要性も示しています。

転職を成功させるための戦略

継続的な学習
現在の仕事に関連する新しいスキルを常に学び続けることで、将来の転職に備えることができます。
副業や趣味を通じたスキル開発
興味のある新しい分野のスキルを、現在の仕事の傍ら副業や趣味として開発することで、将来の転職の可能性を広げることができます。
ネットワーキング
異なる業界の人々とのつながりを持つことで、新しい機会を見つけやすくなります。
段階的な移行
急激な変化ではなく、現在の専門性を活かしながら少しずつ新しい分野にシフトしていく方法を検討しましょう。
メンターシップの活用
新しい分野で経験豊富なメンターを見つけ、指導を受けることで、転職のプロセスをスムーズにすることができます。

年齢に関わらないキャリアチェンジの可能性

これまで、年齢を重ねるにつれて新しい分野への転職が難しくなる側面について述べてきました。
しかし、ここで強調したいのは、年齢が高いからといって新しい分野でのキャリアが不可能になるわけではないということです。
実際、人生100年時代と言われる現代では、50代、60代でキャリアチェンジを果たし、新しい分野で活躍する人々も増えています。

重要なのは、年齢ではなく、学習への姿勢と適応力です。
これらは、日々の習慣と努力によって培うことができるものです。

リスキリングの重要性と成功のカギ

リスキリング（既存のスキルを更新したり、新しいスキルを習得したりすること）は、年齢に関わらずキャリアチェンジを成功させる上で極めて重要です。
以下に、リスキリングを成功させ、新しい分野で活躍するためのポイントをいくつか挙げます。

継続的な学習習慣
日々の生活の中に学習の時間を組み込むことが重要です。例えば、毎日30分オンライン講座を受講する、週に1冊関連書籍を読むなど、小さな習慣から始めることができます。
好奇心と柔軟性の維持
新しい技術やトレンドに対する好奇心を持ち続けることで、変化に対する適応力を高めることができます。日々のニュースチェックや、異なる分野の人々との交流がこれに役立ちます。
実践的なプロジェクトへの参加
学んだことを実際に活用する機会を作ることが重要です。副業、ボランティア、個人プロジェクトなどを通じて、実践的なスキルを磨くことができます。
クロスファンクショナルなスキル開発
現在の専門分野に関連する、しかし少し異なる分野のスキルを開発することで、徐々に新しい分野への移行を準備することができます。
ネットワーキングと情報収集
目指す分野の人々とのネットワークを構築し、業界の最新動向や求められるスキルについて情報を収集することが大切です。
マインドセットの変革
「年齢による限界」という固定観念から脱却し、生涯学習者としてのマインドセットを持つことが重要です。
健康管理
身体的・精神的健康を維持することで、学習効率を高め、新しい挑戦に対する耐性を強化することができます。

結論

年齢に関わらず、新しい分野でのキャリアは可能です。
ただし、それには日々の学習習慣と、新しいことに挑戦し続ける姿勢が不可欠です。
早い段階から自分の専門性を確立することの重要性は変わりませんが、同時に、生涯を通じて学び続け、スキルを更新し続けることも同様に重要です。

この継続的な学習と適応の姿勢こそが、変化の激しい現代社会で長期的なキャリアの成功を支える基盤となります。
年齢を重ねても、学ぶ意欲と好奇心を持ち続けることで、新たな可能性は常に開かれているのです。

今日から、あなたも小さな学習習慣を始めてみませんか？
それが、将来のキャリアチェンジや新たな挑戦の際の大きな力となるはずです。
キャリアの可能性を広げるのは、まさにあなた自身なのです。

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