技術者に向く人・向かない人
著者:竹洞 陽一郎
本記事の対象者
本記事は、未経験から技術職を目指している方、現在テクニカルサポートやエンジニアリングの仕事を検討している方を対象としています。
特に、Spelldataへの応募を検討してくださっている方には、応募の前にぜひ一読していただきたい内容です。
「技術者に向いている人とは何か」を、知識や経験ではなく思考の癖という観点から書いています。
Spelldataは、Webサイトやアプリケーションの性能監視・品質分析、メールセキュリティ、ネットワーク計測などを扱う技術深耕型の会社です。
業務上、DNS、SPF/DKIM/DMARC、TLS、CDN、VPNなど、専門性の高い領域を日常的に扱います。
こうした業務の性質上、未経験から入社した方が伸びていくかどうかは、入社時点の知識量ではなく、思考の習慣で大きく決まります。
本記事では、これまでの採用と教育の経験から見えてきた、技術者に向いている人と向いていない人を分けるポイントを解説します。
ご自身が技術者として伸びていけるかを判断する材料として、活用していただければと思います。
技術者の適性は知識ではなく思考の習慣で決まる
要点: 技術者の適性は、現時点で何を知っているかではなく、未知のことに出会ったときにどう振る舞うかで決まります。
未経験で技術職に応募される方の多くは、「今、技術的なことを知らないこと」を不安に感じています。
しかし、現役の技術者であっても、毎日新しい技術や見たことのないエラーに直面しています。
技術の世界では、「知らないこと」自体は誰にとっても日常です。
重要なのは、知らないことに直面したときの反応の仕方です。
ここに、技術者として伸びる人と伸びない人の差が現れます。
技術者として伸びる人の5つの本質的な資質
要点: 技術者として伸びる人には、5つの共通する思考の習慣があります。
1. 自走する学習者であること
言われなくても自分で調べる、自分で試す習慣があるか。
これは「教えてもらえないと進めない人」と「ドキュメントを読んで自分で進める人」を分ける決定的な要素です。
技術と無関係でも構いません。
楽器を独学した、外国語を自分で勉強した、ゲームの攻略を深く掘り下げた、家電を自分で修理したことがある。
何かを「誰にも頼まれずに自分で深掘りした経験」があるかどうかが、技術職に入った後の成長速度を予測します。
2. 抽象と具体を往復できる思考力
「なぜそうなるのか」を一段抽象的なレベルで理解しようとし、また具体例で確認する。
この往復ができるかどうかが、技術の理解の深さを決めます。
技術はレイヤー構造で成り立っています。
たとえばWebサイトの表示が遅いという問題ひとつをとっても、DNS、TCP/IP、TLS、HTTP/HTTPS、HTML、CSS、JavaScript、画像、CDN、ブラウザレンダリングなど、複数のレイヤーが関わります。
抽象化ができないと、「この設定でこのコマンドを叩く」という手順の暗記止まりになり、状況が少し変わると対応できなくなります。
3. 曖昧さへの耐性
「全部わかってから動きたい」というタイプは、技術職で苦しみます。
基本概念を理解するなど、7割程度を理解したら、後は手を動かし、残りを動きながら埋めることが日常です。
本を読んだだけ、学んだだけでは、人間は物事を習得できません。
新しい技術に取り組むとき、最初は何もわかりません。
ドキュメントを読みながら、試しに動かし、エラーが出れば調べる。
スポーツと同じで、実践してみて、このプロセスに耐えられるか、それとも「説明されないと不安」と感じるかで、伸びる速度が変わります。
4. 失敗を情報として扱える性格
エラーメッセージが出たとき、それを読まずに「動きません」と人に聞きに行く人と、エラーメッセージを起点に調査を始める人がいます。
この差は技術力の差ではなく、失敗を恥として扱うか、情報として扱うかの差です。
技術者の仕事は、失敗の連続です。
コードを書けばバグが出るし、設定を変えれば想定外の動作になる。
失敗のたびに落ち込んでいては仕事になりません。
失敗をデータとして淡々と扱える性格は、技術職で大きな武器になります。
5. 英語への抵抗がないこと
技術領域の一次情報の大半は英語です。
特にSpelldataが扱う領域(計測・監視、Observability、メールセキュリティ、SPF/DKIM/DMARC、TLS、ネットワーク計測など)は、日本語の情報が極端に少なく、英文ドキュメントを直接読む必要があります。
英語が「得意」である必要はありません。
しかし「英語を見ただけで脳が閉じる」状態だと、業務が成立しません。
辞書を引きながらでも、機械翻訳を併用してでも、英文を読み進められる姿勢が必要です。
「訊く人がいない」と「教えても覚えない」は同じ現象の表裏
要点: 技術が身につかない人の多くは、答えを受け取ったときの処理の仕方に共通する問題があります。
技術職で伸びない人には、特徴的な行動パターンがあります。
- Xという問題に直面する
- 先輩に質問して答えをもらう
- メモせず、原理に変換せず、表面的に記憶する
- 翌週、Y(Xの類似問題)に直面する
- 「これは新しい問題だ」と認識し、また質問する
これを繰り返すうちに、「いつまで経っても質問しないと進まない自分」が露呈し、質問すること自体が心理的にコストになっていきます。
本人視点では「訊ける環境ではない」「訊ける人がいない」という感覚になります。
一方、教える側から見ると「先週言ったことが今週には消えている」となります。
両者の主観は矛盾せず、同時に成立する現象です。
伸びる人と伸びない人の差は、答えを受け取った瞬間に出る
要点: 質問への答えをどう処理するかが、長期的な成長を決定します。
伸びる人と伸びない人の違いを、もう少し具体的にお伝えします。
伸びる人の振る舞い
- 答えを聞きながら、「なぜそうなるのか」を遡って質問する
- 答えから一般原則を抽出しようとする(「つまり、◯◯系の問題はすべて△△で考えればいいんですね」)
- 構造化されたメモを取る(自分用のナレッジベースを作る)
- 類似問題に出会うと「あれと同じパターンだ」と認識できる
- 同じ質問を二度しない
伸びない人の振る舞い
- 答えを「今この問題の解決手順」としてのみ受け取り、抽象化や原理への変換をしない
- メモを取らない、または手順の時系列ログだけを残し、構造化されたナレッジにしない
- 「なぜ」を訊かない(「とりあえず動けばOK」と考える)
- 類似問題を新規問題として処理する
- 同じ質問を繰り返す
この差は記憶力の問題ではありません。
受け取った答えを抽象化・構造化する習慣の有無の問題です。
これは才能というより習慣であり、意識的に変えることができます。
自己診断のためのチェックリスト
要点: ご自身が技術者に向いているかを判断する10の質問です。
以下の質問に、どれだけ「はい」と答えられるか、率直に確認してみてください。
- 過去に、誰にも頼まれずに何かを深く学んだ経験がある
- わからないことに出会ったとき、まず自分で調べる癖がある
- マニュアルや説明書を最初から最後まで読むことができる
- 「なぜそうなるのか」を考えるのが好きである
- 全部わからない状態でも、とりあえず手を動かして試すことができる
- 失敗したとき、原因を冷静に分析できる
- 英文を見ても、すぐに諦めずに読もうとする姿勢がある
- 新しいことを学ぶときに、メモや図を書く習慣がある
- 一度聞いたことを、自分の言葉で他人に説明することができる
- 細かい違い(エラーメッセージの文言の違いなど)に気づける
8個以上「はい」であれば、技術者としての適性は十分にあると考えられます。
5個未満の場合は、技術職以外の道のほうが幸せに働ける可能性があります。
技術者に向いていないと感じた方へ
要点: 技術者に向いていないことは、何かが劣っているということではありません。
本記事を読んで「自分は技術者に向いていないかもしれない」と感じた方もいると思います。
それは決して、能力が劣っているということではありません。
人にはそれぞれ向いている仕事があり、技術者はそのうちの一つの選択肢に過ぎません。
営業、企画、マーケティング、サポート、マネジメントなど、別の領域で大きく活躍されている方を、私はこれまで数多く見てきました。
「向いていない仕事を頑張ること」は、本人にとっても会社にとっても、長期的には良い結果になりません。
ご自身の特性に合った仕事を選ぶことのほうが、ずっと大切です。
よくある質問
- 技術者の適性は後から身につけられますか?
-
本記事で挙げた5つの資質のうち、「自走する学習者であること」「抽象と具体を往復する思考」「メモを取る習慣」は、意識的な訓練で改善できます。
あと、スポーツ経験者であれば、頭で理解できるまで待つより、練習量を増やして身体に覚えさせることが大事だというのは分かるでしょう。
ただし、それを意識的にやろうとする意志自体があるかが、結局のところ適性の核になります。 - 未経験でも応募して大丈夫ですか?
-
Spelldataは未経験の方の応募を歓迎しています。
ただし、入社時点の知識ではなく、本記事で挙げた思考の習慣を選考で重視します。
HowよりWhyを深く考えられる、物事を抽象化して本質を掴むことが得意、といった特性が判断材料になります。 - 英語ができないと応募できませんか?
-
TOEICの高いスコアや、流暢な英会話の能力は求めていません。
ある程度の英語の能力があり、英文ドキュメントを辞書や翻訳ツールを併用しながら読み進められる姿勢があれば大丈夫です。
英語だからと避けてしまうのでなければ大丈夫です。 - 記憶力に自信がないのですが、技術者になれますか?
-
技術者に求められるのは記憶力ではなく、構造化と抽象化の能力です。
むしろ、優秀な技術者ほど「覚えるのではなく調べる」「個別の事実ではなく原理を理解する」という習慣を持っています。 - チェックリストで何個ならSpelldataに応募できますか?
-
明確な足切り基準は設けていません。
チェックリストはあくまで自己理解のためのものです。
ご自身の特性を踏まえた上で、応募意欲があれば、ぜひ応募フォームからお問い合わせください。
まとめ
技術者に向いているかどうかは、現時点の知識ではなく、未知のことに対する反応の仕方で決まります。
本記事で挙げた5つの資質——自走する学習、抽象化、曖昧さへの耐性、失敗の扱い、英語への姿勢——は、いずれも才能ではなく習慣です。
意識的に身につけることができます。
ただし、その習慣を身につけようとする意志がない場合、技術職で長く働き続けることは本人にとってつらい経験になります。
ご自身の特性を冷静に見つめ、合っている場所を選ぶことが、何より大切です。
本記事が、ご自身のキャリアを考える上での一助になれば幸いです。