AIが書いてくれる時代に、なぜタッチタイピングなのか


著者: 竹洞 陽一郎

タッチタイピングとは

タッチタイピングとは、キーボードの手元を見ずに、指の位置感覚だけでキーを打つ技法です。
日本では長く「ブラインドタッチ」と呼ばれてきましたが、こちらは和製英語です。
英語では touch typing と言い、「タッチタイピング」はその訳語にあたります。

「AIが書いてくれるから、もう要らない」ではありません

生成AIが業務に入ってきて、「文章はAIに書かせればよいのだから、速く打てる必要はない」という声を聞くようになりました。
実際に使ってみると、逆のことが起きます。

AIに仕事をさせるには、前提条件、制約、判断基準を言葉で渡す必要があります。
渡す情報が曖昧なら、返ってくる出力も曖昧になります。
そして返ってきた出力を読み、どこが違うのかを指摘し、条件を足して、また投げ直します。

つまり、AIを使う仕事は「書く」「読む」「直す」の往復です。
書く量は減りません。むしろ、以前なら口頭で済ませていた指示まで文章にする分、増えます。

このとき、手元を見ながらキーを探していると、思いついた条件を書き終える前に、次の条件を忘れます。
入力速度の問題というより、思考を中断させないための条件だと考えてください。

音声入力では置き換えられない場面があります

音声入力の精度は上がりました。
それでも、次のような場面では使えません。

同居の家族がいる在宅勤務の環境
声を出して仕事をすることが、そもそも難しい家庭があります。
時間帯によっては、家族の生活を妨げることになります。
顧客情報や障害対応の記録
守秘義務のある内容を声に出すことは、自宅であっても避けるべきです。
専門用語、製品名、コマンド
DNSレコードの設定値、HTTPヘッダ名、コマンドラインの引数などは、音声では正確に入りません。
結局、キーボードで打ち直すことになります。

速さよりも「手元を見なくてよい」ことが効きます

タッチタイピングのメリットは、打鍵が速くなることだけではありません。
視線が画面に固定されることによる効果の方が、実務では大きく効きます。

変換ミスにその場で気づける
手元とディスプレイの間を視線が往復していると、誤変換を見落とします。
画面を見ながら打てば、打った瞬間に気づいて直せます。
後から読み返して直す時間が減ります。
目の負担が減る
手元と画面では、目のピント距離が違います。
この往復が繰り返されるほど、目は疲れます。
聞きながら書ける
Zoomでの打ち合わせ中に、相手の表情や共有画面を見たまま記録を取れます。
手元を見る必要がある人は、記録を取るか、相手を見るかのどちらかを諦めることになります。

フォームの問題は、身体への負担にも関わります

不自然な手首の角度で長時間打ち続けることは、手や手首への負担になります。

手のしびれを伴う疾患に手根管症候群があります。
日本整形外科学会の解説によれば、この疾患は原因不明の特発性のものが多く、妊娠・出産期や更年期の女性に多く生じるとされています。
そのほかの要因として、骨折などのケガ、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、透析などが挙げられています。

したがって、タイピングのフォームだけが原因になるわけではありません。
ただし「手の使いすぎ」が要因のひとつに挙げられている以上、負担の少ない姿勢で打てるようにしておくことには意味があります。
手のしびれや痛みが続く場合は、自己判断せず整形外科医に相談してください。

Spelldataでは入社後に習得できます

Spelldataの仕事は、そのほとんどをPCの前で行います。
完全在宅勤務のため、報告も、相談も、記録も、文章で残すことが中心になります。

そのため、入社時にタッチタイピングができない方には、会社から教本を支給し、業務の一環として習得していただいています。

応募の段階では、タッチタイピングができなくても構いません。
「入社してから覚える」という意欲があれば十分です。

未経験の方が、焦って独学で変な癖をつけるよりも、入社後に正しい方法で習得する方が近道です。
Spelldataには毎日3時間の学習時間を業務時間内に確保する制度があります。
この時間を使って、業務と並行して身に付けていただけます。

使用している教本

増田忠著『キーボードを3時間でマスターする法 ワープロ10本指入力テクニック』(日本経済新聞社、1987年11月刊、201ページ、ISBN 9784532045470)を使用しています。

ローマ字入力、JISかな入力、親指シフト、英文タイプのそれぞれについて、練習の手順が示されている本です。
右手から練習を始めるという構成が特徴で、指の動きを段階的に積み上げていきます。

1987年の本のため、新刊での入手は難しく、現在は古書での流通が中心です。
Spelldataでは、この本を入社時に支給しています。

私自身もこの本でタッチタイピングを習得しました。
その後、仕事関係者や友人など100人以上に教えてきましたが、年齢は関係ありませんでした。
60代、70代の方も習得しています。

書名は「3時間」ですが、実際にかかる時間には個人差があります。
それでも、正しい手順で集中して取り組めば、独学で何年もかけるより遥かに短い時間で形になります。
入社後は、まずこの本で正しい指の動きを身に付けていただきます。